春に包まれて


 肩に食い込むザックのベルトを何度も何度も手で扱きながら、でも顔はニヤけている。
坂道を登っていく途中、思わずザックの重さに引っ張られて後ろによろけそうになりながらも、気持ちは物凄く前向きで、次の林道の曲がり角の向う側を想像している。

 2005渓流シーズンが幕を開けた。
3月1日に有給休暇を取ってまで行った時期があったが、そうした解禁もいいが、気の合う仲間と日程を調整して行ける“自主解禁釣行”はまさに満を持したもので、これ以上楽しい時間はない。

 深夜に東京組と合流し一路車止めに。
実は(後から同行者には打ち明けたのだが)、出発の晩、「イヤな予感」が頭を過った。
何がどうイヤなのは分からないのだが、虫の知らせだろうか。私はこうした自分の予感を割合と信じるタチで、予感の大小・濃淡で行動を変えることもある。
今回は希薄な予感であってので、そのまま車止めに向かって宴会だ!と思ったら、ナント先行者がいるではないか?!「そうか、これだったのか・・・」と妙に安心して仲間とビールで入山前夜祭。今晩テン場での大宴会を夢見て早々に眠りに就く。


先行組の二人
 
 朝、早々に目を覚まし、のんびりしている先行者組より先に出発。途中で抜かされるが焦ることはない。こちらは一泊、彼らは日帰りなのである。
 とは言え、「一本上の沢から入ろう」と思っていつもの下降点を通過したはいいが、その先が思った以上にガレており、解禁の体慣らしの意味もあり、いつものルートに戻る。
「もし無理して上流に入っていれば、イヤな予感が現実になったかもしれないな」などと口に出さず歩を進め、河床に着くと先行者組はランチ宴会の真っ最中。
釣り場が被ることを詫び(実際は彼らが釣り師ている間は飲んでいた・・・)、到着祝いのビールを煽る。
 釣りに行く先行者組をテン場の設営をしながら高みの見物をしていたが、どうも食いが鈍そうだ。もしかしたら釣り人が前日の土曜日も入っているかもしれないし、この渇水では無理もないか・・・と納竿した彼らに挨拶して、夕餉のオサカナさんを少々頂きに釣り上がる。
「頭が痛い・・・」と言うまっちゃんはテン場で横になっていたので、無断放置で置き去りにする。
 確かに食いは渋く、ここぞと思うポイントでアタリがない。それでも3Bさんは淵でアユ玉オモリを付けてそこを探り、待望の1尾。私もその上流の落ち込みの泡の舌で待望の1尾。決して大物ではないが、「この感触、この感触!」とニヤけながら、30秒ほどのやりとりを満喫する。下では3Bさんが手で大きくマルを作ってくれている。両尾とも微かにサビが残り、まだ太りきらないヤマトイワナである。
 二人とも1尾を上げ、「後は宴会!」とテン場に戻る。
そう、毎年3月でもウジャウジャ取れるキンパクが今年はどうした訳か1匹も採れない。
いても、タモの網目から零れそうなほど小さいものであった。こんな年は今までなかった。
季節の変化なのだろうか?だとすれば、こうした手付かずに近い奥地にも見えないダメージが波及して来ていると言うことだろうか?


お母さんみたいだ・・・



ブタキ〜ム、ブタキ〜ム!


まさしく春の息吹



春の息吹を揚げる
 釣り組2人は宴会モードでテン場に戻ると、今回はお母さん役のまっちゃんが笑顔で焚き火をして迎えてくれた。何だか昔懐かしい自宅の古民家に帰ってきたような気がするから不思議だ。
思い起こせば、過去の解禁釣行は、大雨、大雪と天候に祟られたことばかりが記憶にある。
その都度「イイんだ、解禁だから!」と自分たち本意で大宴会を張ってきたのであるが、今回は素晴らしい天気になりそうだった。車止め前夜祭での満天の星空、テン場で見上げる雲行きも星空が垣間見え、明日の天気も問題なさそうだ。

 「でも寒いワナ・・・」と言う訳で、熱燗で乾杯し先ずは体を温める。イワナの刺し身をワサビ醤油とオリーブオイル&バルサミコ酢和えカルパッチョ風で、テン場の回りにあったフキノトウを天婦羅と蕗味噌にして頂く。全員で「カァーッ、ウマイッ!!」と春の味覚に舌鼓を打つ。
ピエンロウ、肉テン、豚キムチと家では余りお目にかかれないご馳走が並び、料理に合わせて、熱燗、冷や酒、ビール、焼酎とお酒も変わる。
 17:00過ぎに始まった宴会は、3時間あれば我々をノックアウトするには十分だったらしい。明日の爆釣を夢見て、テントに潜り込んだ。
 途中、小雪が舞ったらしいが、3Bさんだけが気がつき、外に置いてあった道具を仕舞ってくれた。
ありがとうございます。
 早寝早起きを地で行く私は夜中に数回目が開きはしたが、04:00に本格的に覚醒し、焚き火に灯を点す。無数の星が輝いている夜空の下で、素晴らしく贅沢な完チューハイ氷結レモンをグイ飲みする。渇いた喉と体の隅々まで行き渡ると血管が目を覚ましてくる。皆が起きる頃にはすっかり酔っ払いであったが、朝ご飯がこれまたウマイ。「昼前にテン場を出ましょう!」と決め、まっちゃんに初物プレゼントを誓い上流へ。3Bさんは下流部でマッタリするとのこと。
 雲一つない青い空から注ぐ太陽がやっと出始めた新緑の葉を通過する。先日降った雨で苔が洗われた川底に反射して、キラキラと星が舞ったように見える。

 テン場に戻ると3Bさんが焚き火を大きくして待っていてくれた。残ったご飯をカラフトマスとホタテ回のチャーハンというこれまた豪華なランチを済ませ、キツイ登り返しに挑む。



吸い込まれるようだ・・・


2005年の初物



解禁初物尺上大作戦実行中
 このテン場は利用頻度が高いらしく、いろんな物がデポしてあるが、大して重くもなく、嵩張るものでもないのだから、入渓者の怠慢であろう。要は心がけの問題である。
こういう意識レベルだから、「渓流釣りの人は・・・」と十羽総からげで言われることもあるんじゃないだろうか?
焚き火にしても、何でもかんでも放り投げて燃え後に水をかけて帰ると、その焚き火場が周囲と比較して突出して汚い。スチール缶や燃えきらないアルミと出てくる出てくる。
これらをザックに詰め、焚き火の跡を均して出発する。
焚き火はキレイに均された地面で始める方が気持ちイイ。

 時折差し掛かる痩せ尾根を抜ける風に助けられながら、下降点に到着。
後はほとんど平行移動・・・と思いきや、今までの疲れが足腰に来ており、思った以上に歩が進まない・・・

 林道を歩きながら、疲れた後は大福だとかコーラだとか、渓でカツ丼を食べたいだとか、食べ物の話が尽きない。そうそう、今回始めて頂いた3Bさん御用達米軍常用非常食は超高カロリーで野戦には欠かせないだろうし、遭難したりビバークしたりの時にはとても力強いワンパックになるだろう。
 車止めに着くと、思わず涙が零れるのであった。
って、別に感動に咽た訳でなく、ドギツイ花粉症なのであった。
里でも鼻水が止まらない毎日だったが、「杉林を歩いて逆療法だ!」と女房に言うと、「また、都合のいいこと言って・・・」と流し目で見られる始末(-_-;)。
結局、フキノトウ、イワナで春に包まれて至極の時間を過ごしつつ、スギ花粉の嵐に襲われ続けた2日間になったのでした。

 しかし、スギ花粉でも何花粉でも、この場所に来れば全てを水に流せてしまう自分がいることも確かなのである。
遠くに望む、今回行けなかった上流部に向けて折れた尾根が見える。
また、行きたい。


山際に朝日が・・・
コレが見たくてね!

日  程:平成17年3月20日(日)〜21日(月)
メンバー:3Bさん、まっちゃん、管理人
エサ:○:ミミズ、×:ブドウムシ、カワムシはいなかった


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